ひげ爺の今は〇〇となりにけり。

初期の老々介護日誌から、思い出の記、艶笑小咄、別サイトで歴史情話など掲載

もう一つの足も切られる、イヤだあ!

2021.04.09 病室内の様子がわからないので、今までの入院とは違う切迫した雰囲気を感じる。
全面ガラスの出入口の向こうに見える看護詰所にも、直接声を掛けられないのでどこかよそよそしい。
ボタンを押して、面会者に気づいてくれた詰所の者に名前を名乗り、ドアが開けられて、看護士が出て来る。
ケイタイ、スプーン、フォーク、麦茶など飲料水、蓋付きカップ、在宅看護で行なっていた未使用の尿管カニューレなど、持参物を手渡した。
前日の帰りに、妻のケイタイを持ってくるように言われて、点滴入院ぐらいで必要ないのではと思ったが、
この日は「充電器は持ってきていますか?」と問われて、異な感じがした。
短期の点滴入院のはずと聞いている。
担当医間で話し合って、長期になるとの診断が出たのか。
「充電してきています」
それでもなんとなく、浮かぬ顔をしている様子に、
「次に来るときに充電器を持ってきます」
指の不自由な妻に、ケイタイが使えるか疑問に思っていると、果たして心配な電話が夜8時ごろにかかってきた。
声が、さらに聞き取りにくい。
「なんだ、電話がかけられる状態なの?」
「着替えとお金を持ってきて」
「1,2週間と聞いている。全部レンタルを利用すると伝えている」
そこで、なにか妻が喚いているのがわかった。
「わあっ、また切る、もう一つの足も切られる、イヤだあ!」
隔日の入院見舞いでいいと考えていたが、明日も行くと話して、電話を切った。
蜂窩織炎の病名は聞いているが、治療方法についてはまだ医師から聞いていない。
妻に話すはずもないので、もしかしたら血管拡張手術になるかもしれないと話しているのを、耳の遠い妻が、足切断、と早とちりしたのかもしれない。
そう勘違いしても不思議はない、二年前の、足の欠損だ。
その後にも電話をかけて来るかと思っていたが、着信履歴はなかった。
大学病院の医師には、最善の選択をしてもらわなければならない。
イノチを助けるために、残った片足も落とす、では前回の二の舞、医師免許返上だ。
そうまで思った。