ひげ爺の今は〇〇となりにけり。

初期の老々介護日誌から、思い出の記、艶笑小咄、別サイトで歴史情話など掲載

妻のテーブルマナー

2021.03.29 顔を見合わせると、何かにつけ、言うようになった。
「次はいつ薬を飲むの?」
「今度はいつ病院に行くの?」
時間の観念がどこまでわかっているのやら、肉体の痛みは精神を蝕む。
夕食は、すき焼き鍋にした。
生タマゴの皿に、肉を浸し、それをジュエにやろうとする。
「熱いのはダメだ。人間の味付けにした食い物はジュエにやってはいけない」
その場は納得するが、いつの間にか口に入れて冷ました、人間の味を薄めた、肉片をやろうとしている。
きつく叱るわけにはいかない。
妻の、愛情の捌け口なのだ。
ジュエの口に届かないので、床に落としてしまう。
仕方なく、おやつのドッグフードを取りに行き、それをジュエにやるように勧める。
自分の手でやらないと、愛情を示したことにならない。
「あら、もう食べたの? お終い、ジュエ、もうお終い」と、平然として、胸元にこぼしたすき焼き肉を拾って食べている。
どうかすると、フォークを放して、素手で掴んで食べているのがよく見られる、我が家の食事時の光景になった。
それが一番早い、一番やりやすい、妻のテーブルマナーだ。
そのあとのデザートのフルーツタイム。
同量で分けていたが、今や必ず妻は、夫に多い方の分量をよこす。
食べるのが遅い故でもあるが、それだけでないのはもちろん、言うまでもないことだ。


写真は長谷大仏、すっかり気に入った