ひげ爺の今は〇〇となりにけり。

初期の老々介護日誌から、思い出の記、艶笑小咄、別サイトで歴史情話など掲載

オレ、帰る。家に帰る

2021.02.26 昨日、午後の入浴カーが帰って間もなくの事だった。
妻に湯冷ましの爽健美茶を飲まして、さあしばらくひと眠りさせようとしていると、
突然、音信不通であった息子から電話がかかって来て、
「オレ、帰る。家に帰る」になった。
「犬も連れて帰る」
それでしばらく家に滞在するのだとわかる。
こちらからケイタイを鳴らしても電話に出ないし、近場に住んでいるわけでもないから、もしや異変でも起こっていたらと様子見に行く、というわけにもいかない。
実に、連絡不行き届き、疎遠を厭わない、息子だった。
過去にも幾度か訪ねて行き、不動産屋、交番まで動かして室内に入ると、居ない。
事件に巻き込まれていないのはわかるので、ホッとしているところに、何事かと本人が悠然と現われたのには、呆れて、怒ることもできなかった。
無事な姿を見ると、親は何も言えなくなってしまう。
今の世のコロナ渦に入る前に、商売の失敗で、店は倒産し、その後処理で苦慮した。
営業上の債務は仕方ないとして、店舗を空にしてスケルトン状態にして明け渡さなければならないというのに、最低でも1000万円の見積もり額が出て、あわてた。
大坂梅田繁華街のビルの地下一階フロア全部借り上げて始めた、ダイニングバー。
30代になったばかりの若者が経営するには、少し無理があった。
案の定、7年ほどして、倒産。
知恵をしぼり、頭を使って、とりあえずは債務処理できたはずだが、現在がどうなっているのか、一切親に話さないので、わからない。
そんな息子が「オレ、帰る、家に帰る」となり、数日来の暖かさが夜には冷えると聞き、妻と今夜の夕食はカニ鍋にしようと元々決めていた。
これは妻の実家の義兄から毎年歳暮にもらう、箱入りのノルウェー産タラバガニ。
すでに二回賞味した残りの三片。
冷凍庫から取り出して、解凍、一本一本固い殻を削ぎ、皿に並べる。
普通の家庭刃では削げない、出刃包丁を用意してある。
息子が帰る嬉しさと、めったにないタラバ料理につい浮かれて写真を撮りました。
帰って来た息子から、「オレ、マンションを引き払って来た」になったのには、妻も嬉しさ倍増の目のかがやきを見せていた。

結局、息子にはカニ鍋の話はしていなかったので、どこかで食べて来る、一人分は残して、夫婦二人の贅沢な夕餉だった。

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