ひげ爺の今は〇〇となりにけり。

初期の老々介護日誌から、思い出の記、艶笑小咄、別サイトで歴史情話など掲載

人格否定しないで!

2021.02.15 昨日はバレンタインデーとかで、娘からヨックモック菓子が届けられて、そのお礼電話をしたのに、夕方、妻がケイタイを取り出して、どこかに繋ごうとしている。
前夜の地震が心配で、娘に様子を尋ねようとしているのだ。
「お菓子のお礼で声を聞いたばかりではないか」
「地震のことを話したいの」
「メールがあった。こちらはどうかと」
「わたしは見ていない。どうしてメールがあったことを教えてくれないの」
「話したばかりだから、いいだろうと思って」
娘はとなりの市に住んでいる。震度4は変わらない。被害もない。
それでもケイタイをいじっているので、仕方なく、娘に繋いでやった。
どこに番号があるのか、ケイタイの電話帳を開くと、多くの知人の名前が載っている。
手指が相手の名前を違えずに押すのはやや危なっかしいので、最近は電話で話しているのを見たことはない。3年前から年賀状をもらっても、返礼ができずにいる。
もし間違えたところに繋がると、余分な心配をかけて迷惑になる。
話す声は弱々しく、かすれ声で、いかにも息絶え絶えに聞こえる。
たちまち、変な電話がかかってきて出られたら応対に困るので、家電話には出ないように言い含めている。
また、立ち上がらないと届かない場所に受話器はある。
今の妻の状態で、電話に出られると容易くオレオレ詐欺に引っかかる。
そんな思いで、つい「電話しなくていい」と強い口調になってしまった。
しばらく押し黙っていたが
「わたしの人格を否定しないで」に虚を突かれてしまった。
いつの間にか、妻をまったく普通扱いの人間にしていなくなっていた。
言葉はたしかにたどたどしい。
動きもほとんど自力では立ち行かない。
それでも人格否定するまでのことではない。
「そんな言葉が出るのなら、まだ頭はしっかりしている」
心で謝るしかない。
今朝は、調子のいい起床で、妻は「うわあっ!」と大きな声を張り上げて、両手いっぱいの吐き出しをして、抱きかかえられて車いすに移り、一日が始まる。
この叫びは気分よく目覚めた、それを知らせる「うわあっ!」なのだ。


都之隠士の世界