ひげ爺の今は〇〇となりにけり。

初期の老々介護日誌から、思い出の記、艶笑小咄、別サイトで歴史情話など掲載

牡蠣フライを手づかみで喰う

2021.02.05 診察、超音波、診察、血液採取など続いて、昼時になったので病院のレストランで食事をして帰ることになった。
御膳箸を使えなくなって久しいので、フォークに替えてもらったが、家にあるのと違ってゴム輪が付いていないのでこれもうまく使えない。
フォークの腹に乗せようとしてうまくできず、突き刺そうとしてゆるゆるだから、するりと落ちる。
その度に脇から手を伸ばして、手助けをする。
それでもぼろぼろと何やかや落としている。
ついには牡蠣フライを手で掴んで、口に入れた。
これは家での食事マナーで、夫婦二人きりだから、どこからも不躾にはならない。
手指が軽くグーをしたように変形しているので、そこに箸やフォークを挿み入れて握るので、うまくできなくて当然だ。
自分で口に運んで行ってくれるだけでありがたい。
食事、服薬、水分補給などの度に口に持って行ってやるのでは、たぶん、こちらの身が持たなくなるだろう。
隣りの席の老夫婦が、牡蠣フライを手づかみで喰う、妻に驚いていた。
車いすに、酸素ボンベ、大き目のバッグで隠しているが尿パックを吊るし、それぞれの管は外から見える。
精一杯の衣裳で飾った、妙齢? のご婦人が、まさかの手づかみで食事をしている姿に、しかし、誰もが眉をひそめることはない。
悠然と一品ごとに平らげる妻に、揚げ立てで持ってきたのだろう牡蠣フライは掌に熱く感じないのだろうかと思ったが、それ以上の感想はない。
最後にコップの水を、味わうかのように飲み干したのには、理由もなく感動した。
実にスマートな食事風景であったように思う。
家に帰り、入浴カーの時間に間に合い、さっぱりしたあとは疲れ切って爆睡していた。
来週また介護タクシーを呼んで病院に行かなければならないのが、やや窮屈だが、それもまた老後の一コマです。


都之隠士の世界