ひげ爺の今は〇〇となりにけり。

初期の老々介護日誌から、思い出の記、艶笑小咄、別サイトで歴史情話など掲載

兄ちゃん、ええやない、こんなん見逃してや

2021.05.19 驚いたことに妻はピンピンしていた!
出て来たニコニコ顔の若い看護士に、爽健美茶を預けて、
「昨日、奥さん、何か変なことを口走っていたけど、奥さんに変わりはない?」
「元気ですよ。入院生活が長くなると、皆さん時々、ボーとされることがありますけど、奥様は食欲もあり、お元気です。なんでしたら、ここまでベッドを運んで来ますから、お顔をご覧になりますか」
へえー、と考えてしまった。
ビニール越しにしか会えません。会話はできないと思います、わたし、何か変よ、は何だったのか。
入口までベッドを運んでくるとは、大変だろうと思いながら、廊下を移動しているベッドはよく見かけている、準備ができるまで、パイプ椅子に腰かけて待った。
妻はベッドに横たわって運ばれてきたのではなくて、車いすに乗って出て来た。
姿勢が起き上がっていたので、いつもの普段どおりの顔に見えた。
やや日焼け色が落ちたように思えたが、病人白くはなく、元気そうだった。
廊下の幅いっぱいにガラス扉が開いたままになっているのと、看護士が付き添っているので、目に見えぬ外部からの侵入を遠慮して、引き上げようとしていると、妻が目配せして声を発した。
「廊下で話しましょ」
妻は、積極的に物事に立ち向かう、性格だった。


長男が生まれて、生活にやや困窮していた頃、休日に人が集まる相模川河川敷で、かき氷販売をしたことがある。
飛ぶように売れる、とはこのことだ。
こんなボロイ商売を見て見ぬふりをされるはずがない。
「どこの者だ、誰の許可でやっている」
自家用車のプレートナンバーは「大阪」のままだった。
「兄ちゃん、ええやない、こんなん見逃してや」
見るからにウルサ型に即対応できるのが、妻の感心するところだ。
自分はいろんな事態を想定しながら考えているので、一歩遅れる。
案の定、かき氷の台ごと引き倒されて、そこでこの日のボロ儲けはジエンドになった。
さすがに、売上金までは持っていかれなかった、が。


「いえ、それはちょっと、できません」
「ということらしいよ。もう少しの辛抱だ。来週には帰れる。顔を見れたので安心したよ」
妻は名残惜しそうだったが、手を振って別れた。


写真は高野山、こんなものを見つけ、ややがっかりした。

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